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Real Fantasy物語 ~勇者ジェミニの伝説~ -銀の冠と黄金の剣- NEW!

 2025-12-13

元になるお話はこちらから

勇者ジェミニの伝説

勇者ジェミニの伝説 クリスタル探索冒険記 -アレーシャの森編ー

 

勇者ジェミニによって魔王が討たれてから2年。

年に一度の世界最大のお祭り「銀華金輪祭(ぎんかきんりんさい)」

月の神と太陽の神を奉るお祭りでジェミニたちは懐かしい仲間たちと顔を合わせることになります。

そしてある事件に巻き込まれることに。

さて、その事件とは……?

 

 

勇者ジェミニによって魔王が討たれてから2年の時が経とうとしていました。

光の勇者ジェミニは生まれ故郷のテラスの村で暮らしており、闇の勇者ジェミニはリベルナ近郊のヒスイの森で暮らしていました。

 

そんなある時、2人に1通の手紙が届きました。

 

「ジェミニ~あんた宛に手紙が届いてるよ~。」

「ありがと、るるむ。誰だろう、ジェミニかなあ?……どれどれ……え!?グランデュオス国王!!?」

 

それは、年に1回の祭、銀華金輪祭(ぎんかきんりんさい)への招待の手紙でした。

 

この世界では月と太陽が信仰されており、それにまつわる様々なお祭りが世界各地で開かれています。その中で年に一度の世界最大規模のお祭りがこの銀華金輪祭です。

 

「へ~、今年は銀華金輪祭やるんだね。魔王が倒されてから初開催だよね、たしか。2人のジェミニに参加して欲しいって書いてあるから、ジェミニも行くのかな。誘ってみようかな。」

 

一方ヒスイの森。

「なあメリーベル。あんたは銀華金輪祭には行ったことあるか?」

 

「ああ、あるよ。ん?あんたは行ったことないのか……そりゃそうか、あんたは信仰に興味がないもんね。この世界は月と太陽の神が治めていると言われていてね、その神々への感謝として昔から毎年お祭りを開いているんだ。年に一度、太陽と月が同じ方角になる新月の日に向けて数日間開かれるんだけど、はるか昔は祭好きの神々も地上に降りて一緒に参加していたという逸話まであるんだ。人間はなんとか神の目を引いて加護をもらおうと、珍しいものを献上したり歌や踊りといった特技を披露したりしてたってところから、今でも神の象徴である銀の冠と黄金の剣を飾って露店や舞台をやっているんだよ。

魔王をお前たちが倒して初めて開かれる銀華金輪祭だから、かなり盛大になるだろうね。」

 

「なるほど……どうしようかな……。」

 

「ん??これ、グランデュオスの国王からの直々の招待状じゃないか!さすがにこれは参加だろ。あそこはお前たちがクリスタルの奇跡を受けた場所だろ?国王もお前たちを特別視しているわけだし、行ってみたらどうだ?」

 

「……そうだな!」

 

「あ!そうだ!あたしもポニーとネコイチと、あとはシータも誘って行こうかな!!」

 

 

それから2人のジェミニはグランデュオスを訪れ、久々の再会を果たしました。

 

「わあ、久しぶりジェミニ!!全然変わってないね!相変わらず怖い顔だ!」

「ああ、久しぶりだ。お前も相変わらず能天気そうな顔してるな!ははっ。」

 

「しかしすごい人の数だね!!前に一緒に来た時はもっと静かでちょっと殺風景な感じもしてたけど、同じ国とは思えないよ!」

口をぽかんとあけて辺りを見回しながら光のジェミニは言いました。

 

「おや、まさかジェミニ殿か??」

そう声をかけられて振り返るとそこには、エルボス帝国の第10兵隊隊長のハロネストとクリスタリアの大司祭がいました。

 

「あ!ハロネストさんに、大司祭!!こんにちは!」

 

「これは大勇者のお二人、お目にかかれて光栄じゃ。その節は大変世話になったな。お前さんたちが本当にあの魔王を倒してしまうとは。あの時のご無礼をどうかお許しくだされ。」

 

「あの一件以来、わが国王も人が変わったかのように民のもとに足を運び私たちにも意見を求めるようになった。そして兵隊を作り直し、侵略ではなく防衛に力を入れるようになったのだ。すべて大司祭とジェミニ殿のおかげだ。心から感謝している。」

ハロネストは真剣な表情で2人のジェミニにお礼を伝えました。

 

「わわわ、大司祭にハロネストさん!!ありがたいけど、今日はお祭りだからもうちょっと明るく肩の力を抜いていこう!!僕たち国王に挨拶してくるから、またね!」

ジェミニたちは2人に手を振ると城に向かって歩いていきました。

 

お城に向かう道には様々なお店が立ち並んでいます。

 

「いらっしゃい!珍しい鉱石だよ、是非見ていっておくれ!」

「新鮮な野菜を持ってきてるよー、1つどうだい?」

「お兄さん、うちの名物の串焼き食べていかないかい?」

「そこの人、くじ引きやっていかないかい!?豪華景品が当たるかもしれないよ!しかも外れ無しだよ!」

 

「……わあ、すごいなあ。あの鉱石に星がついたアクセサリーすごく綺麗だね!あ、美味しそうなにおいもするよ。ちょっと食べていこうよ!!あ、待って!あの狼のぬいぐるみ、シャルムへのお土産にいいんじゃないか?」

光のジェミニは目を輝かせながら、少し荒い息づかいで落ち着きなくキョロキョロしています。

 

「いや、でもやっぱりまずは腹ごしらえだよね!見てよあれ!銀華クレープだ!ノハナさんから聞いたことがあったんだよ、すごく美味しいって!」

光のジェミニが指さした先には、月と花をかたどったチョコレートがクリームの上に飾られ、銀色のラメが輝くクレープがトレーに重ねられていました。

 

「待って!太陽パイもあるよ!僕は甘いものの前にまずはしょっぱいものを食べたい派だからね!えっと……中身はかぼちゃかな……うわっ、見てよ!あのとろけたチーズ!!ソースはミートソースとホワイトソースみたいだね!!ああ……いい匂いだなあ……僕お腹空いてきちゃったよ!!」

今度は隣の店を覗いては、光のジェミニは興奮気味に言いました。

 

「おいおい、落ち着けって。まだ来たばかりだぞ。あとでゆっくり見て回れるだろ。」

「そ、そうだね、ふー、ふー、まずは、国王に挨拶しなきゃだもんね。」

 

そんな言葉とは裏腹に、珍しい品々や美味しそうな食べ物に目を奪われてなかなか前に進まない光のジェミニの手を闇のジェミニが引っ張りながら、2人は城内の国王の元へと足を進めていきました。

 

「ねえ、ジェミニ。グランデュオスの国王って威厳があってちょっと怖そうだから緊張しない?今日いきなり怒られたりしないよね?」

「何言ってんだよ。お前は何かやましいことでもあるのか?堂々としてりゃあいいだろ。」

 

コソコソ話をしながら2人は重厚なドアをゆっくり開けて王の間へと入っていきました。

 

「おお、偉大なる勇者よ!!よく来たな!!ああ、神よ……このめでたき日に尊き賓客をお招きくださりありがとうございます。」

「国王様、この度はご招待いただきありがとうございます。本当にたくさんの人でにぎわっていて、世界が活気に満ち溢れているように感じられます。」

光のジェミニは笑顔で話しました。

 

「ああ、本当にそなたらのおかげだ。魔王が倒されたとはいえまだ脅威がなくなったわけではないが、民の暮らしもいくらかは落ち着いた。ここから平和の灯をさらに大きく広げていくためにも此度の銀華金輪祭の開催を決意したのだが、本当に良かった。いつもよりも多くの人がこの日を楽しんでおるように感じられる。」

 

「はい、ここに来る途中、誰もが笑っていました。この満ち満ちたエネルギーに触れた多くの人たちは平和の訪れを肌で実感しているのではないかと思います。このような機会を作っていただきありがとうございます!」

闇のジェミニも、嬉しそうな国王につられるかのように笑顔で話しました。

 

「そうか、民は笑っておったか!ああ、なんと良き日だ!!こうしてはおれぬ!!堅苦しいことは抜きだ!!!勇者ジェミニよ、今夜の酒は私にとことん付き合ってもらうぞ!!!」

 

「え……あ……はい!」

 

威厳の中にも抑えきれない喜びがこぼれる国王の誘いに、2人のジェミニは押し切られるように返事をしました。

 

 

それから城を後にした2人のジェミニは、再び露店へと戻っていきました。

 

「いや~王様、すごく嬉しそうだったね。食事のお誘いもすごい勢いだったし、掴みかかってこられるかと思ったよ。」

「ああ、俺も反射的に魔法で反撃するところだったぜ。」

2人は顔を見合わせ笑いながら少し足早に城から離れ露店の方へ歩いていきます。

 

「ん??」

「どうしたの……?」

「いや、いま何か黒い影がすごい速さで空を横切ったような気がして。大きな魔力を感じた。」

「なんだろうね、カラスか、大型の黒鳥か何かだったんじゃないかな。」

「……ああ……そう、だったかもな。」

「あ、そうだ!そんなことよりせっかくだから、神様の銀の冠と黄金の剣を見に行こうよ!確か舞台がある祭壇に飾られてるんだよね!」

「……そうだな、行ってみるか!」

 

2人は行き交う人に道を尋ねながら祭壇のほうへと向かいました。

 

祭壇に向かう道の両脇に立ち並ぶ露店には様々なものが売られています。

アクセサリーやお菓子、食べ物、民芸品やお酒など、それぞれの地域から持ち寄られた珍しいものが店のテーブルや絨毯の上に所狭しと並べられています。

 

またところどころで音楽の演奏をし陽気に踊っている人も見かけ、誰もが笑顔でキラキラ輝いて見えます。

 

「ふー、ふー、楽しそうだね、みんな……なんだか僕もテンション上がってきたよ……!!」

興奮した様子の光のジェミニでしたが、不意に声をかけられ我に返りました。

 

「お、ジェミニじゃないか!」

「あ、師匠!!!それにるるむとミーも!」

「ご無沙汰してます、カノさん!」

「おお、魔道士のジェミニ君も元気そうだな。」

カノと闇のジェミニは笑顔で握手を交わしました。

 

「え……ジェミニお兄ちゃんが2人いる!!!」

小さな女の子が目を丸くしながら驚いて声をあげました。

 

「ははは、ミーはジェミニを見るのは初めてだったね。そうなんだ、顔も似てるし、名前もジェミニっていうんだよ。不思議だろ?」

光のジェミニは優しくミーに話しかけます。

 

「そう、ややこしいのよ。でも、ミー、安心して!見分け方は簡単だから。ぼんやりした顔してるのが、いつも村で会ってるジェミニお兄ちゃんよ。そしてちょっと精悍な引き締まった顔をしてるのが、魔道士のジェミニさんよ。」

るるむはニヤっと笑ってミーに伝えます。

 

「わあ、ほんとうだあ。るるむお姉ちゃんありがとう。」

「ええっ!!僕、そんなにぼんやりしてるかなあ……。」

 

何かすごい発見をしたかのように驚き喜ぶミーの言葉に、ガックリと肩を落とした様子で言葉を返す光のジェミニを見て、全員が笑いました。

 

「俺たちは祭壇に神の冠と剣を見に行こうとしてたんだが、ジェミニ、お前たちも行くか?」

「はい、僕たちも師匠と同じでちょうど祭壇に今向かっているところでした。一緒に行きましょう。」

 

「みんな楽しそうっすね!!お久しぶりっす、ジェミニさんたちっ!!」

軽くノリの良い声がする方を向くと、そこにはバルドティア王国の騎士ピクシスとアーク、そしてサチ・ミ・ルークがこちらに笑顔を向けて立っていました。

 

「あ、ピクシス君!!アーク副長にサチ・ミ・ルーク隊長!!久しぶり!」

光のジェミニも満面の笑みを返しました。

 

「カノ様。陛下がカノ様にもよろしく伝えて欲しいと、その言葉と一緒に金貨を預かっております。これで有意義に過ごせとのことです。」

そういうとアークは金貨の入った袋をカノに渡しました。

 

「え、こりゃまいったな。大金じゃないか。わざわざありがとう。じゃあ俺が1枚金貨をもらうから、1枚をジェミニにあげてくれ。残りは君たちで使うといい。」

 

「え!!いいんすか!!??カノさんめっちゃ優しいっすね!!俺カノさん大好きっす!!アークさん、俺新しいピアス欲しいっす!!」

ピクシスが少し興奮気味に話します。

 

「やめないか、ピクシス!!いけません、カノさん!これはあなたに贈られた金貨。私たちがいただくことはできません。」

サチ・ミ・ルークが慌てた様子で断ります。

 

「いやいや気にするなって、サチ。おっさんになると物欲がなくなるんだ。こんな大金持ってても仕方がないさ。じゃあ、君たちもこのお祭りをゆっくり楽しんでくれ。ピクシス君も新しいピアスが買えるといいな、はっはっはっは。さあ、行こう。」

カノは金貨の入った袋をピクシスの頭の上に乗せると笑いながら祭壇の方に向かっていきました。

 

 

一行がしばらく歩くと、大勢の人だかりができています。

その先の高くなった舞台の奥に銀色に輝く冠と、黄金に輝く剣が祀られているのが見えます。

 

「わああ、あれが神が残したって言われてる冠と剣かあ。綺麗ねえ……。」

「綺麗ねえ……。」

驚いた様子でつぶやくるるむに続けてミーもつぶやきます。

 

「ほんとだね!綺麗だしすごくかっこいいよ!!僕も装備してみたいなあ……。あの剣で魔法剣使ったら強いかなあ。」

光のジェミニは目を輝かせて剣を見つめています。

 

「お前にはちょっと似合わないかもな。はははっ。」

闇のジェミニはからかうように笑います。

 

「相変わらずだね、おまえたち。あれ自体には大した魔力はこめられちゃいないさ。」

投げかけられた聞き覚えのある真っすぐ堂々とした声に2人はハッとし振り向くと、そこにはポニーとメリーベルとシータが立っていました。

 

「わ!!ポニーさん!!メリーベルさん!!シータ君も!!」

「覚えてくれていたんですか!?またお会いできて光栄です、ジェミニさん!!」

とても嬉しそうにシータが答えます。

 

「おおお、ポニーにメリーベルじゃないか!!!」

「カノ!!!!」

「カノ!!」

「2人とも懐かしいなあ!!ははっ、元気そうじゃないか!!」

「ちょっと老けたけど、あんたも元気そうじゃないか。何年振りだろね!!」

「今でもお前の噂は時々セインティティアで耳にするよ、カノ。強さは相変わらずみたいだな。」

「あんたもな、ポニー。またセインティティアと合同訓練があったときに、今度はあんたにボコボコにされないように鍛えてるのさ。」

「ああ……カノ、あんたの顔を見たら、サイオウのことも思い出してなんだかあたしは泣けてきたよ……。」

「おいメリーベル、せっかくの再会なのに湿っぽくなるのは私はごめんだぞ。」

 

メリーベル、ポニー、カノは旧友との再会を心から喜びました。

話が尽きそうにない様子を見て、ジェミニたちとシータは少し離れた場所で笑顔溢れる再会の時を過ごしました。

 

 

懐かしく楽しい時間はあっという間に過ぎていき、日が暮れると2人のジェミニは仲間たちに別れを告げ、国王との食事に向かいました。

 

城の宴会場に招かれた2人のジェミニは、国王の横に座り、大臣や国の要人たちと大変賑やかな時間を過ごしました。その食事会は深夜を超えるまで続き、キッチンの灯りは夜通し消えることがなく、多くの酒樽が空っぽになりました。

 

そして翌朝。

 

「あいたたた……頭が痛いし気持ち悪いし……お酒飲みすぎたよ……。」

「ああ、俺もだ……国王があんなにはしゃぐ人だったなんてな。あの中で一番楽しそうにはしゃいでたんじゃないか。」

 

2人は気だるい時間を過ごしていると、二日酔いでヘロヘロになっている2人のもとに、慌てた様子で国王の遣いがやってきました。

 

「ジェミニ様!!!大変でございます!!!どうかすぐに王の間にお越しください!!!」

 

国王の遣いに追い立てられるように急いで王の間に向かうと、国王が厳しい顔で部屋の中を落ち着きなく行ったり来たりしていました。

 

「来たか、勇者ジェミニよ。急に呼び出してすまぬな。」

「いえ……それよりも、何か大変ことでも起こったのでしょうか。」

「そうなのだ。今朝報告が入ったのだが、どうやら銀の冠と黄金の剣が何者かに盗まれたらしい。」

「えええ!!!」

2人のジェミニは思わず驚きの声をあげました。

 

国王は険しい表情のまま話を続けます。

「あそこには誰も立ち入られないように魔法で強力な結界を張っておったのだが、それも破られておったらしい。しかも犯人の目撃情報もない。こんな芸当ができるのは、相当な手練れであろう。」

「魔物の仕業でしょうか。もしくは賊が忍び込んでいる??」

「いつかのセインティティアの件もあるから、魔物が人間に化けているっていう線もあるかもしれない。」

 

部屋は緊張感に包まれました。

 

「早く探し出さねば、あの神器がなくなったと民に気づかれては民も失望してしまうし、祭の継続も危うい。あの神器は太陽と月の神の象徴なのだ。何より世界の宝である神器がなくなるなどあってはならない。神への冒涜ともいえよう。勇者ジェミニよ、どうか力を貸してくれぬか。神に遣える世界一の信仰国の王として、命を懸けてでも取り戻さねばならぬ!」

「わかりました、国王様!ちょうど今、この国には僕たちが信頼できる仲間が数多く訪れています。その人たちに助けを求めれば、大きな力になってくれるはずです!」

 

2人のジェミニは王の間を後にし、急いで仲間たちを集め、再び王の間を訪れました。

 

「ううむ……セインティティアの幹部に大魔道士たち、バルドティアの騎士たちにクリスタリアの大司祭、エルボス帝国の兵隊長、そしてあの英雄騎士カノまでおるのか。なんというそうそうたる顔ぶれ。」

 

「魔法研究所の所長のネコイチ様もおるじゃろうが!!」

ネコイチはムッとしてつぶやきました。

 

「ネコイチさん、昨日はどこに行ってたんですか。グランデュオスに着くや否やすぐにどこかに行ってしまって……。」

シータがコソコソとネコイチに話しかけます。

 

「わっはっは、酒場に入り浸っておったのじゃ!」

「え、昼間からですか!!!??」

 

コソコソ話を遮るかのように闇のジェミニが話を切り出します。

 

「王様、大まかな話はすでに伝えてあります。このメンバーがいればきっと盗まれた神器も取り返せるはずです!しかし犯人に遠くに逃げられてしまっては見つけられなくなります。急いで捜査に出かけたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ふむ、そのとおりだな。よし、あらためて事の詳細を伝えておこう。」

 

国王から今回の事件の詳細を聞いたメンバーたちは城内の別の部屋に再び集まり、思い思いのグループに分かれて作戦会議を開くことにしました。

 

ポニー、メリーベル、カノ

サチ・ミ・ルーク、アーク、ハロネスト、シータ

るるむ、ミー、ピクシス

大司祭、ネコイチ

光のジェミニ、闇のジェミニ

 

「よし、国王陛下の言った通り、タイムリミットは日没だ!まずはお昼に一度ここに集合して情報共有をしよう。みんな検討を祈るぜ!」

 

闇のジェミニの掛け声とともに全員が出発をしました。

 

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「なんだか大変なことになってしまいましたね。あ、僕はシータです。よろしくお願いします。」

「よろしく、私はサチ・ミ・ルークだ。まずは一度自己紹介をしよう。この神器探しで力を発揮できそうなみんなの特技を教えてくれないか。どうやって探すか、情報の整理と作戦会議をしよう。」

「ああ、素晴らしい判断だな、バルドティアの騎士隊長。私はエルボス帝国の兵隊長を務めているハロネストだ。」

「私はバルドティアの騎士、アークです。シータさん、ハロネストさん、お二人のような英雄にお会いできて光栄です。」

 

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「あらためて、俺はピクシスっす。よろしくっす!」

「私はるるむ。この子はミーだよ。」

「こんにちはお兄ちゃん。ミーだよ。お兄ちゃん背が高いね~。」

「へっへっへ、190センチあるっすからね。」

「へー、カノ師匠より大きいんだね。頼りにしてるわよ、ピクシス。」

「お任せあれっすよ!」

「ミー、忘れ物はない?」

「うん、ちゃんとハンカチもティッシュもあるよ。おやつも持ってきた。ほら、昨日お店で買ったクッキー。」

「あ、それアイスドラゴンクッキーじゃないっすか!!俺ドラコンドルクッキーと迷ったんすよね!おまけでついてくるキーホルダー欲しさにドラコンドルにしたんすよ。ほら、俺もクッキー持ってきたっす。」

「わああ、お兄ちゃんのクッキーもかっこいいねえ。じゃあミーのクッキーと半分こしよう。」

「いいすよ、ミーちゃん。じゃあ後で一緒に食べるっすよ。」

「ミー、水筒は?」

「え……あ!忘れた!」

「もお、出るとき準備してたじゃない!」

「いいっすよ、じゃあどこかでジュース買ってから出発しましょう!俺も喉かわいたっす。」

 

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「まさかクリスタリアの大司祭とご一緒できるとは。わしはネコイチじゃ。よろしくのう。」

「ネコイチさんのことはお噂に聞いておりますぞ。セインティティアの危機にその発明品で多くの魔物を倒し、国を救ったと。」

「おお、なんとご存じじゃったか!ワシの英雄譚がそこまで広まっておったとは!見てくだされ、これがその時に使った火炎瓶じゃ。ここに火をつけて相手に投げつけると炎の魔法と同等の力を出せるんじゃよ。」

「ほほう、これは興味深いですな。よく見せていただきたい。いやあ、まったく大したものじゃ。ところでネコイチさん、1つ頼みがあるのじゃが。先ほどのみんなとの長話に少々疲れてのう。ちょっと店で飲み物を飲んで休んでもよいかの?」

「おお、わしもそう思っておったのじゃ。では早速行くとしよう。ところで大司祭はもうここの酒は飲まれましたかな?」

 

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「3人で行動するってワクワクするな。なんだかあの頃に戻ったみたいだぜ。」

「あっはっはっ、あたしもだよカノ。合同訓練は2週間くらいだったけど、4人でよく行動してたもんな。」

「そうだな。あれから20年以上経つが、カノやお前といると気持ちはあの頃のままなのだと気づかされる。」

「よっしゃ、俺たちも若い連中に負けねえように、いっちょやってやろうぜ!!」

「威張るな、カノ。あんたはどうせいつもふざけてばかりだろう。」

「はっはっは、メリーベル、お前は人の世話焼いてばかりだろ。あんまり焼きすぎると相手が黒焦げになっちまうぞ?」

「ふふふ……カノ、お前のおならに引火してお前が黒焦げになるかもな。」

「おいおいポニー、俺もここにきて、 “炎の魔法剣のカノ”の異名がついちまうってのか!?」

 

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「一大事だっていうのに、みんななんだか楽しそうだったね。」

「ああ、まるで遠足気分みたいだったぜ。あのポニーさんですら楽しそうな顔してたからな。」

「大丈夫かなあ……やっぱり一番頼りになるのは僕たちだよね。何せ、世界の英雄だからね!ふっふっふ!」

「よし、まずは祭壇に行って現地調査だ。何か手がかりがあるかもしれない。」

 

 

それから2人のジェミニは祭壇に向かい周辺をじっくり調べ始めました。

 

「うーん……何かが壊された様子もないし、魔法が無理に壊されたときに残る魔力の残骸もない。綺麗に解除しているところを見ると、かなりのレベルの魔法使いの仕業だろう。」

「それって、どれくらい難しいことなんだい?」

「昨日実際にバリアの近くまで行ったときに感じた様子から推測するに、これを綺麗に破るにはおそらくポニーさんやメリーベルくらいの魔力、少なくともセインティティアの第5エリアの魔道士レベルじゃないと無理だ。」

「それはもうできる人は限られちゃうね。」

「逆に言えば強い魔力をたどっていくと犯人を突き止められる可能性がある。」

「なるほど、確かに!!君はそういう魔力探知はできるのかい?」

「いや、俺はやったことがないが、ポニーさんならできるかもしれない。ただ、その犯人たちがグループ犯だった場合、冠と剣を別のやつに渡して逃げてたら、もう分からないな。」

「そうだよね。この周辺の人たちに聞き込みをしてみよう。」

 

2人のジェミニは祭壇の周辺、そして露店にも足を運び大きな魔力を持った怪しそうな人がいなかったか聞いて回りましたが、有力な情報はまったく得られませんでした。

 

「ぜんぜんダメだー、それらしい情報は何もなかったよ。僕もう、疲れちゃったよ。」

「こっちもダメだ。そろそろ12時になるな。集合時間だから一旦城に戻ってみんなの情報を確認しよう。」

 

城に戻ると他のグループもすでに集まっていました。

 

「みんな、何か収穫はあったかい?」

 

光のジェミニはみんなに尋ねましたが、みんな下を向いて無言で首を横に振るだけでした。

 

「魔力探知をしてみたが、それらしいやつは確かに何人かはいた。そいつらをしらみつぶしに確認することはできるな。」

ポニーの後に続いてアークも報告をします。

 

「私たちは城内の人たちに聞き取りをしてみました。犯人が身内だということも考えられますからね。一番自然にあの神器を奪うこともできます。しかし、誰1人当日祭壇に近づいた人はいませんでした。午後はそれを裏付ける情報を祭壇付近の聞き込みで確認しようと考えています。」

 

「ミーたちもね、犯人見つけられなかったよ!!」

 

ミーは露店でもらったであろう風船を握りしめ、口の周りにチョコをつけながら真っすぐな目ではきはきと言いました。そして隣では、新しいピアスを光らせ、同じく口の周りにうっすらチョコをつけたピクシスが大きくうなづきました。

さらにその隣のるるむは疲れた顔をして小さく何度かうなずきました。

 

「これはわしの出番ということじゃな!任せておくがいい!」

赤い顔をしたネコイチは静まる空気をかき消すかのように声を張り上げました。

 

「さすがじゃな、ネコイチ殿!!!」

同じく赤い顔をした大司祭は笑顔で拍手をしました。

 

「おい、ネコイチ……それに大司祭まで!どうしたんだ、その顔は……まさか……」

 

そう言いかけたメリーベルは状況を察し、続く言葉をため息にかえ頭を抱えました。

 

「わっはっは、ちょっとばかし飲んでおったのじゃ!ちょっとじゃぞ、ちょっと。」

「そうじゃ、ほんのちょっとじゃ!!」

 

クリスタリアの大司祭もネコイチに続いて上機嫌に言います。

 

「このネコイチ様の発明品、お宝くっつき棒が活躍するときが来たぞい。」

 

そういうと、ネコイチは自慢げに棒の先に巨大な磁石がついたものを取り出しました。

 

「な、なんだい、その奇妙な棒は?」

光のジェミニは驚いた顔でネコイチに尋ねると、自信満々にネコイチは答えます。

 

「こいつはお宝を引き寄せるスペシャルなアイテムじゃ!これを使って、国中をくまなく歩き回れば冠と剣はこいつに引き寄せられるはずじゃ!

冠も剣も、もしかするとまだこの国のどこかに隠されておるかもしれん。

盗んだものをすぐに持ち去ってしまうと捕まる確率も上がるからのう、ほとぼりが冷めるまでどこかに隠しておけば、仮に見つかっても盗んだ犯人は捕まることはないし、落ち着いたころに持ち去れば比較的安全に手に入れることができる。なくなった今が一番危険だと、犯人もわかっておるはずじゃ。灯台下暗しというやつじゃ。」

 

「よっ!!セインティティアの裏国王!!」

大司祭はご機嫌にはやしたてます。

 

「……なんだか、それっぽいような、そうじゃないような……」

 

大司祭以外のメンバーはみんな怪訝そうな顔をしています。

 

「ま、まあいいや。みんな午後からもそれぞれやることはハッキリしてるみたいだしね。次は日没に集合だね!」

「ああ、言っておくがここがタイムリミットだ。必ずここまでに神器を見つけよう!」

2人のジェミニは勢いよく全員に声をかけました。

 

「あー、るるむたちは、この城に残っていてくれ。大事な役割がある。この部屋を連絡場所にするんだ。何かあった時にるるむたちを中継地点にする。日没までの間に時々ここに足を運んで情報の共有をしておくんだ。これで他のチームにも情報が伝わりやすくなる。できるかい、ミー?」

カノは疲れた顔のるるむの状況を察してそう提案すると同時にミーに優しく語りかけました。

「うん!!分かったよ!ミーに任せて!!」

ミーは真剣な表情で大きく返事をしました。

 

「よし、じゃあ出発だ!」

 

闇のジェミニの掛け声の下、それぞれのグループは飛び出していきました。

2人のジェミニは国王に状況を報告し、再び城を後にしました。

 

「おい、聞いたか!祭壇に祭ってある冠と剣が盗まれたって話だぜ!」

「え、まじかよ!!あれは神の象徴だろ!それがないだなんて、この祭やる意味あるのか。」

「もう朝からずっとらしい。あんな大事なもの盗まれるなんてこの国は大丈夫なのかよ。」

 

2人のジェミニが露店を歩いていると、すれ違いざまに人々の声が聞こえてきます。

 

「誰が盗んだんだろうな。」

「あんなお宝を盗めるやつだ、きっと凄腕の魔道士じゃないか?」

「ああ、おおかたセインティティアのやつらがやったんじゃないか?」

「あり得るな!だが、エルボスから来た連中っていう線もあり得る。」

「確かにな、あの国のやつら、特に兵士はガラが悪いからな!」

 

 

「まずいな……さすがに気づき始めた人もいるみたいだぜ。」

「うん、早く取り戻さないと、この国だけじゃなくて、いろんな国の人たちへの不信感がどんどん募っちゃうね!!」

 

その時、遠くから大きな悲鳴が聞こえてきました。

 

「泥棒だー!!!」

 

「おいジェミニ!あっちだ!行くぞ!!」

闇のジェミニはそう言い放つと声のするほうへ一目散に駆け出しました。

 

声のもとに駆けつけると店員の男が呆然と立ち尽くしています。

 

「何があった!?」

 

「空から数匹のカラスのような鳥があっという間に俺の商品を持って行っちまったんだ!すごいスピードだったよ!そして、それに気をとられている間にフードを被ったやつが他の商品をもって辺りを霧の魔法で包んで逃げていったんだ。こいつもあっという間に走り去ってすぐに見えなくなっちまった。」

「もしかすると、神器を盗んだやつかもしれない!」

「そうか、上空!魔法で結界を破ったあと、何か動物の力を使って上空から奪っていったのかもしれないね。」

「ああ、だが冠はまだしも、黄金の剣を加えて飛んでいくだなんて、普通のカラスじゃなさそうだな。どっちにしてもかなりの魔法の使い手だろう。」

 

それから2人のジェミニはフードの泥棒が逃げた方向へ駆け出しました。

「この距離なら俺にもわかるぞ!確かにかなり強い魔力だ!……こっちだ!」

感じられる魔力を頼りに2人のジェミニは後を追いかけます。

 

それからしばらく走り、祭壇の近くでフードの泥棒を視界にとらえました。

 

「いた、あいつだ!!」

 

フードの泥棒は2人のジェミニに気がつくと、氷の魔法で攻撃をしてきました。

同時に霧の魔法で辺りを包み逃げ出そうとしましたが、闇のジェミニの炎の魔法でかき消します。

フードの泥棒は手を振り下ろすと、上空から黒い鳥が何匹も2人に襲い掛かりました。

 

「くっ……これは……魔法で作った鳥!?なんて精度だ!本物の鳥と見分けがつかないほどだ。」

「ああ、しまった、逃げて行っちゃったよ。」

 

フードの泥棒はあっという間に家の屋根を飛び越えて逃げて行きました。

 

「ぐわああああ!!!」

 

逃げた方向からは叫び声が聞こえてきました。

 

「ちっ、あいつ!!逃げ際に誰か街の人に危害を加えていきやがったな!!!許さねえぞ!!」

闇のジェミニは諦めずに追いかけます。

 

しかし、追った先に待っていたのは、切り倒され痛みに転がっているフードの泥棒と、その傍らに立つサチ・ミ・ルーク、そしてその同行メンバーたちでした。

 

「お前ら!!」

「あ、みんな!!」

 

「ジェミニさんたち!……ああ、こいつが魔法で襲い掛かってきたから切り伏せただけだ。大丈夫、加減をしたから死んじゃいない。」

サチ・ミ・ルークは剣を納めながら冷静に言いました。

 

「さっすがサチさんだね!」

「そいつは神器を盗んだ犯人かもしれない!」

 

闇のジェミニの言葉に、シータは慌ててフードの泥棒を拘束し、相手に呼びかけました。

「じゃあ早速取り調べですね!ちゃんと答えてくださいね、泥棒さん。」

「ここにいるのは、各国の軍の隊長や幹部、そして世界を救った勇者だ。観念したほうがいい。」

ハロネストが低い声で脅すように言うと、フードの泥棒は観念した様子でおとなしくなりました。

 

 

それから神器についてシータやハロネストが詰め寄りましたが、結局フードの泥棒は犯人ではありませんでした。

 

「どうやら本当に嘘はついていないみたいですね。」

「ああ、本当にただの盗人だったようだな。どちらにしてもこいつは牢屋行きだろう。城まで私が連行しよう。」

「ハロネストさん、私も行きますよ!証人と状況説明は2人いたほうが確実です。」

「そうだな。アーク殿、感謝する。」

アークとハロネストはフードの泥棒を連れてお城のほうに歩いていきました。

 

「くそぅ、振り出しに戻るか。」

「一体どこにあるんだろうね、冠と剣……。」

「…………。」

2人のジェミニの言葉のあとにしばらく沈黙が続きましたが、各々はゆっくりと神器を探しに散らばっていきました。

 

ジェミニたちは城で待機するるるむたちに確認したり、露店を歩き回り聞き込みをしたり、手当たり次第に探しましたが、神器を見つけることはできませんでした。

そして日が暮れ始め、タイムリミットの時間になりました。

 

2人のジェミニも重い足取りでとぼとぼと城に戻りました。

城に戻る間も、いたるところから神器がなくなった話や、祭への不信感を募らせた人々の声が聞こえてきます。

 

「今回の神器の件は想像以上に影響が大きそうだね。」

「ああ、あれは神の象徴でもあるわけだし、神の目を引くためにみんなこの祭に参加しているんだ。その神がいないのなら、ここにいる意味はないからな。」

 

 

2人が城に戻ると、王が待ちわびたような顔で迎えてくれましたが、進展がないことを伝えると残念な表情を浮かべながらも2人を労ってくれました。

 

それから続けて城に帰還したグループも神器を見つけることはできず、最後に戻ってきたサチ・ミ・ルークたちも同様でした。

 

全員が集まる中で国王はゆっくりと口を開きました。

 

「皆の者、ご苦労であった。そなたらの力添えに感謝する。残念ながらいまだ神器は見つかってはおらん。はぁ、いったいどこにいったのだろうな……。もはやすでにこの国には無いのかもしれぬ。これはグランデュオス始まって以来の歴史的な事件だ。

こうなった今、隠しきれるものではない。もはや世界各国に通達をし、神器の捜索に向けて動くしかないだろうな。

私は国王失格だ。神器を盗まれた今、誰が人々の信仰を守れぬ者を王と認めようか。国民にも、先祖にも、そして月の神、太陽の神にも顔向けできぬ。」

「王様……」

「すでに外では、神器がないことで噂が立ち、騒ぎになっている。私が直接皆に説明してこよう。そなたらのここまでの協力に心から感謝する。皆には、少ないがせめて金貨を贈らせてくれ。1人1人受け取るがよい。」

 

国王は下を向き、力なく話し終えると大きなため息をつき、ポケットから金貨を取り出しました。

 

「1、2、3、4……金貨が少し足りぬか……ん??なんだこれは??なぜ宝物庫のカギが私のポケットに入っておるのだ??……まあよいか。大臣、金貨を持ってくるのだ。」

 

そう言うと、国王は宝物庫のカギを大臣に渡し、金貨を取りに行かせました。

 

「かしこまりました。」

 

大臣はカギを受け取るとそそくさと宝物庫に向かいましたが、すぐに慌てた様子で戻ってきました。

 

「陛下!!!!!!!陛下!!大変です!!!!!」

「なんだ、どうした大臣!」

 

部屋中に緊張感が走りました……

 

「はあ、はあ、はあ、陛下!!!宝物庫に!!!!」

 

「ど、どうしたと言うのだ!!!」

 

「神器がありましたーーーー!!!!!」

 

「ええぇ?????」

 

国王をはじめ、部屋にいる全員の頭に『?』が浮かび上がるかのように、全員がキョトンとした顔をしました。

 

「な、な……なんだとー!!!!!」

 

全員が急いで宝物庫に駆けつけると、一番奥の豪華な棚にきちんと銀の冠と黄金の剣が飾られてありました。

 

「ど、ど、ど、どういうことだ!!!」

国王が慌てて大臣を問い詰めます。

 

「見張りの門番にも確認しましたが、昨晩陛下が入って以来ここに立ち入ったものはおりませんでした。」

 

「な、な、な、な、なんだと!!!」

 

「その……お言葉ですが……陛下……」

 

「な、な、な、なんだ!!!」

 

「その……陛下が昨晩の宴で大変酔っ払いになられて、祭壇から銀の冠と黄金の剣をわざわざ持ってきて、棚に飾ったのを眺めながら酒を飲んでそのまま眠ってしまわれたのですが……もしかして、それから祭壇にお戻しにならなかったのですか……?」

 

「は???…………すまぬ…………まったく覚えておらぬ……」

 

国王の顔が一瞬で凍りつきました。

 

「え……ということは、盗んだ犯人はいなかったってことかい?」

「いや、おったぞ!国王陛下だ!わっはっは!!」

 

まだ理解が追い付いていない様子で光のジェミニがつぶやいた言葉に対して、ネコイチが大きな声で笑うと、その場の空気が一気にゆるみ、安堵の声が広がりました。

 

「あああ、な、な、な、なんということだ……私が原因であったのか……皆になんと詫びればよいのか。ああ、なんということだ……なんということだ……」

国王は顔を真っ赤にし、慌てた様子で1人ごとのように早口で言います。

 

慌てふためく国王の隣で、落ち着いた様子の大臣は、ゆっくりと皆に向かって話しはじめました。

 

「どうか皆様、今回の件、ご容赦いただけないでしょうか。国王陛下は本当に、この祭が開かれることを楽しみにしていらっしゃいました。この銀華金輪祭は平和の象徴のようなもの。陛下は、長く緊張感の続いた世界にこれで少しでも明かりを灯せるとおっしゃっておりました。そしてその立役者の2人の若き勇者との宴も、ずいぶん前から楽しみにしていたのです。

神の信仰国という立場上、普段はとても厳格でいらっしゃる国王陛下が、こうも期待に胸を躍らせて高揚している姿は私もめったに見たことがございません。その宴は、きっと私たち以上に陛下にとっては特別なものだったに違いありません。記憶を失くすほどに酒に酔い、神器を眺めながら1人宝物庫で眠ったのも、その特別感を心の底から実感し、その日を喜んでいらっしゃったのだと思います。そしてそれほどまでに陛下は、毎日世界を気にかけ平和を願い、世界の信仰の中心国として世界の人々に心配をかけないよう気を張り続けていらっしゃったのだと思うと、こんな事態になっていたとしても私は国王をとても誇りに思うのです。」

 

「大臣……」

 

下を向いていた国王は目を少し潤ませながら大臣の顔を見上げました。

そしてその場にいるみんなも、微笑みながら国王と大臣のほうを眺めました。

 

「見つかってよかったですね、国王陛下。」

シータが笑顔で声をかけると、みんなは口々に思い思いの言葉を口にしました。

 

「ああ、本当によかったぜ……」

「安心したね」

「一時はどうなるかと思ったよ」

「灯台下暗しというやつじゃな!!」

「わっはっは、さすがネコイチ殿じゃ!!」

「やれやれだよ、まったく」

「ああ、まあ、結果オーライなんじゃないか」

「わーい、見つかってよかったねー!」

「やったっすね!」

「もうこんな思いは懲り懲りよ……」

 

「さあ、そんなことより早く祭壇に戻したほうがいいんじゃないかい?それに、民たちにも国王様からメッセージを伝えたほうがいいだろうな。」

ポニーがそういうと、みんなは大きくうなずきました。

 

「よし、大臣!すぐに祭壇に向かうぞ!」

「僕たちもいこうよ!国王陛下を応援しよう!」

 

それから国王と大臣、それから神器探しに奮闘したジェミニたち一行は全員で祭壇に向かいました。

 

その道中、ただ事ではない気配を感じた民衆は、王の後ろをついていき、祭壇の舞台周辺には多くの民たちで溢れかえっていました。

 

国王は祭壇に銀の冠と黄金の剣を戻し、魔法で結界を貼ると民に向かって語りかけました。

 

「わがグランデュオスの民たちよ、そしてこの国に訪れている皆の者よ、私の声が聞こえるか。私はグランデュオスの王、アルディオスだ。いま、風の魔法を使ってこの国にいるすべての者に話しかけておる。私の話を聞いてほしい。」

 

国王のその声に、一瞬にしてあたりは静まり返りました。

 

「今朝から祭壇にある銀の冠と黄金の剣がなくなっておったことに気づいていた者もいたであろう。これらの神器に関しては、いま再び祭壇に戻っていることをまずは皆に伝える。安心してくれ。そして、この神器は、私が宝物庫に一度しまったまま、出し忘れておったのだ。皆にあらぬ疑念を抱かせてしまって本当にすまない。私のせいなのだ。この神器に期待して国を訪れた者には心から詫びよう。皆は安心して祭を続けてほしい。明日より再び舞台での演目も再開する。」

 

話を聞いた民たちは、様々な反応を見せます。

 

安堵の表情を浮かべる者、盗みを疑っていた気持ちに気まずくなってしまった者、失望した者、特に気にせず聞き流す者、怒りを覚えた者……

 

混とんとした雰囲気が国中に漂いました。

 

「…………。」

 

その雰囲気に国王は落ち込んだような表情で視線を落としました。

 

その時、闇のジェミニが、光のジェミニの手を引っ張り一緒に舞台に上がりました。

 

「みんな!聞いてくれ!俺たちはジェミニだ!魔王を倒した、魔道士のジェミニと剣士のジェミニだ!」

 

その声に民衆の驚いたような視線が再び舞台に集まりました。

 

「おい、まさか、あの勇者が来てるのかよ!!!」

「え!嘘だろ!!まさか俺たちの勇者様をお目にかかれるなんて!!」

 

国中にざわざわとした声がいたるところで湧き上がります。

 

「みんな、お願いがある。神器はいわば神そのものだ。それが1日中ここになかっただなんてみんなのショックや残念に思う気持ちは大きかっただろう。だがそれでも、今回のことをどうか水に流してほしい!せっかくの久しぶりの祭。祭好きの神たちもこんな雰囲気は望んでないはずだ!せっかくのこの機会をみんなの笑顔が溢れる期間にしたい。大事な神器のこととはいえ、この国のことも、他人のことも、もちろん自分のことも責めないでほしいんだ。

たくさんの困難や失敗があっても、俺たちはくじけずにそこから学び次に繋げてきたからこそ、今では魔王のいないこの世界があるわけだろ。

この祭もあと数日。みんなでもっと楽しいお祭りにしてやろう!!こんな珍事のお祭りは歴史上、初だろう。ある意味ラッキーだ。みんな笑い話にできるよう最高の祭りにしてやろうぜ!」

「うん、僕からもお願いだ!あ、剣士のジェミニだよ。こんにちは。国王様のうっかりミスで出し忘れちゃったけど、僕だってうっかりミスはあるよ。みんなだってそうでしょ?せっかくのおめでたいお祭。今からでもできるだけ特別なものになるように、一緒に盛り上げてほしいんだ!僕たちからもお願いだよ!」

 

2人のジェミニのスピーチを聞いた人々のざわつきの声は次第に大きくなっていきます。

 

「そうだ、勇者様の言う通りだ。俺たちで作ろう!」

「そ、そうだな、結局神は戻ってきたわけだしな!」

「よっしゃ!だったらうちは半額セールをやるよ!」

「よ、よしうちはおまけをつけてやる!」

「うちはみんなにジュースを配ろう!」

「俺たちの勇者に恥をかかせるわけにはいかないしな!最高の祭りにして神様を大喜びさせてやろうぜ!」

 

大きく熱を帯びた声は拍手と歓声に代わり、国中が湧き上がりました。

 

「ふふ、やるじゃないか。」

「はっはっは、立派になったなジェミニ。」

「おにーちゃんたちすごーい!!!」

「さすがは我らが勇者殿。」

 

 

「ははっ、みんなありがとう!僕たちも一緒に盛り上げるよ!」

「ああ。俺たちも最後まで祭に参加するから、是非声をかけてくれ。」

 

「ああ……民よ……勇者よ……ありがとう……」

さわやかな風が舞台に吹き抜ける中、国王は笑顔にかわった人々を見渡し涙を流しながらポツリとつぶやきました。

 

 

星が輝く夜空には歌や踊りの笛と太鼓の音が楽しそうに響き渡っています。

店に吊るされた太陽や月の形をしたランタンの灯りが、道の両側を柔らかに照らし、風に揺れるたびに店に並べられた鉱石やアクセサリー、行き交う人々の顔をキラキラと輝かせていました。

 

子供たちが人混みを縫って、どこかの店で手に入れた星の欠片のガラス玉を持って駆け抜けていきます。その小さな手に高く掲げられたガラス玉に両脇のランタンの光が反射し、夜空に元気な星が浮かびました。

 

 

その後、湧き上がった人々の熱は収まることなく、数日間夜通し祭が続けられることとなりそのまま無事に終わりを迎えることができました。

 

そして祭が終わりを迎えた翌日の朝の王の間。

 

「此度は本当に世話になった。そなたらがいなければ、祭はもっと殺伐としたものになっていたであろうな。信仰すら揺らいでおったかもしれん。国を、いや、世界を代表して感謝しよう。大げさかもしれぬが、またもや2人に世界を救われたな。」

 

「言いすぎですよ、王様。王様の真っ直ぐで誠実なスピーチも素晴らしかったですよ。」

「まあ、これも王様の平和への気持ちの強さゆえに起こった出来事ですから、寧ろ喜ばれるべきことです。」

「そう言ってもらえると多少は気が楽になるが、安心しすぎて今度は神器をしまい忘れないようにせねばな。」

国王は苦笑いをしながら言いました。

 

2人のジェミニは国王に挨拶をし城を後にすると、その先で待つ仲間たちと合流し、そして全員でしばらくの別れを惜しみました。

 

「ジェミニ、いつでも鍛錬を怠るなよ。お前らも久々に会えて嬉しかったぜ。」

「カノ、たまにはリベルナやセインティティアに遊びにきなよ。また飲み比べをしよう。あっはっは。」

「ふふふ、私も参加するよ、メリーベル。」

「え、ポニーさんもですか!?じゃあ僕も!!カノさんに剣を教えてもらいたいです!」

 

「ハロネストさん、あなたが率いる兵隊と我々で今度合同訓練をしませんか?」

「それは名案だなサチ・ミ・ルーク殿。是非バルドティア騎士隊の皆さんの胸をお借りしたい。アーク殿のことも部下に紹介させていただきたい。」

「こちらこそ、エルボス帝国の剣を学ばせてください。あと、ハロネストさんの兵としてのその精神を若いメンバーに教えていただきたい。」

 

「ネコイチ殿、今度我が町の銘酒プルミエラムールを持って遊びに行かせていただいてもよいかの?」

「おお、もちろんじゃ!その時はワシのとっておきのアイテムを大司祭に見せて差し上げよう。」

 

「うぅ……お兄ちゃん、今度ミーのところにまた遊びに来てね!!うぇ~ん!」

「もちろんっすよ、ミーちゃん!!今度はとっておきのお菓子をもっていくんで、楽しみにしててくれっす!」

「もお、あんたたち、なんで兄妹みたいにすっかり仲良くなっちゃってるのよ。」

 

ジェミニたちはずいぶんと長く別れを惜しむ時間を過ごしました。

 

すっかり日が昇った太陽に、祭壇にいまだ飾られた銀の冠と黄金の剣が照らされ輝いています。

その輝きに祝福されるかのように、光を浴びた仲間たちは次々に自分の国へと帰っていきました。

 

「さて、僕たちも帰ろうか。」

「なあ、ジェミニ。カノさんから聞いたんだけど、俺たちの師匠、サイオウとカノさんが一緒に旅をしたように、俺たちも世界を見て回らないか?いま世界がどんな状況なのかを見て回って、世界に平和が続くように守りたいんだ。もしまた魔王が生まれても、再び倒せるように腕も磨いておきたい。」

「へぇ、君がそんなことを言い出すなんてね。このお祭りで平和の尊さや人々の喜びの熱に感化されたのかな。うん、是非行こう!今だって魔物がいなくなったわけじゃないしね。平和を維持していくことは魔王を倒した者の責務だからね、ふっふっふ。うん、カッコいいこと言うなあ、僕!」

「ああ、約束だぜ!」

「うん!!あ、もうこのまま旅に出かけちゃおうか!」

 

こうしてグランデュオスを後にした2人のジェミニは世界を見て回る旅に出かけたのでした。

 

優しく穏やかに吹く風に背中を押されるように。

 

 

Real Fantasy物語 勇者ジェミニの伝説 ~銀の冠と黄金の剣~ 完

 

 

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